SIR / SEIR モデルの歴史と周期性の数理構造

1. 歴史概要

1.1 疫学における起源

SIR モデルは 1927 年、Kermack & McKendrick により疫学分野で提案された。 感染症流行の「立ち上がり」「ピーク」「収束」を数理的に理解するための 常微分方程式モデルである。

1.2 SEIR への拡張

潜伏期間を明示的に扱う必要から、SIR に潜伏状態 $E$ を追加した SEIR モデルが導入された。

1.3 数学的発展と応用

20 世紀を通じて、SIR / SEIR モデルは数学的に洗練され、 多段階潜伏モデル、分布遅延モデル、ネットワークモデルなどへ拡張された。 COVID-19 以降は、マクロ経済学の動学モデル(DSGE)にも組み込まれている。


2. SEIR モデルの基本構造

2.1 連続時間 SEIR 方程式

状態変数:

  • $S(t)$:感受性保持者
  • $E(t)$:潜伏状態
  • $I(t)$:感染性を持つ発症者
  • $R(t)$:免疫保持者

SEIR 方程式:

\[ \begin{aligned} \dfrac{dS}{dt} &= -\beta S I + \delta R, \\ \dfrac{dE}{dt} &= \beta S I - \sigma E, \\ \dfrac{dI}{dt} &= \sigma E - \gamma I, \\ \dfrac{dR}{dt} &= \gamma I - \delta R. \end{aligned} \]

  • $\beta$:感染率
  • $\sigma = 1/\text{潜伏日数}$
  • $\gamma = 1/\text{発症日数}$
  • $\delta = 1/\text{免疫維持日数}$

3. 周期性をもつ条件(固有値解析)

3.1 線形化と 2 変数系への簡約

平衡点 $(S_*, E_*, I_*, R_*)$ のまわりで線形化すると、 周期性は主に $(E, I)$ の 2 変数系で決まる。

\[ \begin{aligned} \dfrac{dE}{dt} &= -\sigma E + \beta S_* I, \\ \dfrac{dI}{dt} &= \sigma E - \gamma I. \end{aligned} \]

3.2 固有値の一般式

係数行列の固有値 $\lambda$ は次式を満たす:

\[ \lambda^2 + (\sigma + \gamma)\lambda + \sigma(\gamma - \beta S_*) = 0. \]

判別式:

\[ D = (\sigma + \gamma)^2 - 4\sigma(\gamma - \beta S_*). \]

周期性が現れる条件は $D < 0$、すなわち

\[ \beta S_* > \gamma + \dfrac{(\sigma - \gamma)^2}{4\sigma}. \]


4. 周期日数と「免疫維持日数 × 2 + α」

4.1 周期日数の一般式

固有値が $\lambda = a \pm bi$ の形をとるとき、 周期 $T$ は虚数成分 $b$ により

\[ T = \dfrac{2\pi}{|b|} \]

で与えられる。

4.2 $b$ の具体式

\[ b^2 = 4\sigma(\beta S_* - \gamma) - (\sigma + \gamma)^2. \]

4.3 「免疫維持日数 × 2」が支配項になる理由

免疫維持日数は $\delta^{-1}$ であり、 $R \to S$ の戻り時間を決めるため、 集団の循環周期の骨格を形成する。

経験的には、

\[ T \approx 2 \times (\text{免疫維持日数}) + \alpha \]

となる。

4.4 補正項 $\alpha$ の意味

\[ \alpha = \left( \dfrac{2\pi}{|b|} \right) - 2 \times (\text{免疫維持日数}) \]

であり、潜伏期間・発症期間・感染率・感受性保持者 $S_*$ の非対称性による補正項である。

5. まとめ

  • SIR / SEIR モデルは 1927 年に疫学で誕生した。
  • 周期性の一般解は固有値解析により数学的に解かれている。
  • 周期性の条件は判別式 $D < 0$ により与えられる。
  • 周期日数 $T$ は免疫維持日数の約 2 倍を支配項とし、潜伏・発症などの補正 $\alpha$ を伴う。